日本と中国によるインドネシア高速鉄道受注合戦の報道が前からですが今回も少しおかしいので指摘しておきます。 9月3日のインドネシア政府の方針で、インドネシア政府は国家予算を使った新幹線建設の中止を発表しました。その後も新幹線建設はBtoBで進められましたが、ここにきて日本メディアはこぞって「中国からの受注が濃厚。インドネシアは『白紙化発言』を撤回した」みたいなノリで報道をしています(ほとんど全社? 適当に「インドネシア・新幹線・白紙」とかで検索したら出てきます https://archive.is/dEfGi)
2015年9月3日のインドネシア政府発表以降、日本メディアは「インドネシア新幹線導入計画自体を白紙化」、そして、9月第4週に入って「インドネシア大統領が『白紙化』を更に撤回」のような歪んだ報道を行い、購読ユーザからは「インドネシアの大統領は政策も持たず独断でテキトウに政治をやってダメだこりゃ」みたいな意見も出ていると思いますが、すこし待ってほしいと思います。そもそも白紙化、白紙化、白紙化撤回、白紙化撤回とくどく合掌しているのはおそらく日本メディアだけな気がするんですが。
以下に、インドネシア内閣官房公式サイトに掲載された9月3日の新幹線建設に関する政府発表をほぼ全訳で掲載します。ちょっとニュアンスが違いますよ。
~ココから
2015年9月3日 内閣官房発表
タイトル: 「大統領決定:ジャカルタ-バンドン高速鉄道建設は、BUMN(国営企業)管轄とする」
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領は「高速鉄道に国家予算は使わない。B to Bビジネスとして、国営企業に任せることにした。よって再度検討せよと伝えた」と述べ、ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道建設に対して国家予算を投入せず、本件をBUMN(国営企業)に委ねることを決定しました(9月3日)。
大統領はインドネシアにおける鉄道建設の重要性を十分承知していますが、政府方針として国家予算を圧迫する鉄道建設を認めず、結論的にB to Bでのアプローチを取る旨を決定しました。大統領によると「国家予算を圧迫したくない。よって高速鉄道に国家予算を使わないことに決定した。政府は予算を割かない。よって、私は国営企業にB to Bで事業を行うよう本件を委ねた」とのことです。
中国と日本案の却下
イグナシウス・ヨナン運輸大臣は、本件が今後B to B案件になることを踏まえ、日本・中国両案の却下を決定しました。運輸大臣によると「要はB to Bになったということ。国家予算は使わない」とのことで、国家予算を使ったスキームの政府プロジェクトを否定しました。また、「今後政府は監督機関の立場であって、直接参入はしない。高速鉄道、中速鉄道建設を行いたいならB to Bでということだ。国営企業への交渉は企業ビジネスということだ」と、政府は直接関与を行わず、監督機関の立場を取る旨を述べました。
更に、「B to Bで進めたいのであれば、日本または中国と組めばよい」と、国家予算を用いない投資案件として日中両政府は本プロジェクトを継続できると述べました。運輸大臣によるとインドネシア政府は国家予算を使った案件に関しては、最優先事項ではない高速鉄道ではなく、スマトラ、カリマンタン、スラウェシ、パプアへの鉄道建設に注視した方がよいだろうとのことです。
これに先立ち、インドネシア政府は日本と中国から、時速300キロのジャカルタ-バンドン間高速鉄道建設の提案を受けていました。これにより従来2~3時間かかってきた同区間を37分で結ぶことが可能となり、日本側の実行可能性調査ではチレボンやスラバヤまでの接続対応も見られました。
以上。
~ココまで
ということで、インドネシア政府がくどく発表していたのは
- 国家予算は使わない
- B to Bで本プロジェクトは継続する
の2点です。白紙ではなく、国営企業への移管とそれに伴う継続です。そして、現在、B to Bで本案件は動いている模様です。
上記政府発表から、高速鉄道導入計画そのものが消滅して、それが今回、大統領のテキトウな気持ちで再復活した訳ではないことは見て取れると思います。インドネシアと中国は以前からコンソーシアムを組んで本件の開発を行う交渉を続けていますが、万が一、このまま中国がB to Bで本件の受注を獲得したとしても、それは「『白紙化』の撤回」ではなく、公表通りの単なる継続案件であることは明白です。インドネシアと中国を「国家予算を使わないといっても国営企業自体に国からカネが流れるなら一緒じゃないか」と批判するのならわかるのですが「『白紙化』の撤回」及びそれに伴って、検証無しで「賄賂と後進技術国のインドネシアと中国の共謀にやられた」的な批判を行うのは誤りだと自分は思っています(責任もって検証すればOKですが)。
それをまあ、日本案が採用されなかった時点で、日中への配慮から白紙化にしたとか、たまたま日本語ができる本件担当外のラフマッドゴーベル元商業相が罷免されたとか、国民のためにジャワ島外開発を重視だとか(ジャカルタ-スラバヤ間新幹線は政府案としてまだ残っています)、そして中国側に案件が傾いている可能性が強くなれば「白紙化撤回」だとか、記事の内容などすぐに消え去る or 忘れ去られることを知っているからでしょうか、責任を取る立場にないのを承知で、好きな事を書くのは少し頂けないかと。。。アクセスがほしいのはわかりますが、時に読者を欺き、煽るようなスタイルは、彼らの客であるユーザ及び日本の新幹線導入に尽力されている各方面の方々に対しても失礼な気がします。今後、この新幹線ネタに関しても、彼らがどんな後付ジャンケンを書くかよく見ておいてください。また、月並みですが、本件の詳細情報を知りたい方は日本ソースのみに頼らず英語や現地ソースを直接あたって常識を加味したうえで内容を比較してください。 しかし、それ以前に、この新幹線導入の話題、現地では日本のように盛り上がっているネタでもなく。。。。。。
2015年10月4日追記: 本編の完結編「インドネシア高速鉄道報道:日本メディアのおかしな報道と後出しジャンケン(完結編)」を書きました。