2匹目のどじょう、嘘ばっかりの産経「インドネシア・スシ海洋水産相の中国船爆破」記事

体が柔らかいスシ海洋水産相

先日の5月2日、テレビ東京の未来世紀ジパングで『インドネシア「日本」VS「中国」』といった感じの番組が放映されました。内容は「高速鉄道問題」「中国漁船爆破」「日本ブーム」などです(予告を見て既にイタいの確定だったので私は本編を見ておりません。番組のコメントは控えさせて頂きます)。

通常、新聞やネットメディアがニュースを先行し、その後、遅れてテレビ番組や週刊紙がそれらのニュースをエンタメ仕立てにして再提供するものだと思っていましたが、この未来世紀ジパング放送終了の3日後、四大新聞社の一社である産経ニュースが番組のおこぼれにあずかる形で『【中国と闘うアジア】違法操業した外国漁船を次々爆破…インドネシアの女傑 スシ海洋・水産相の素顔に迫る』というタイトルの記事をリリースしました。この2匹目のどじょうにあやかったエンタメ記事はネットユーザの嗜好にうまく合致したもようで、ソーシャルメディアなどで好意的に拡散されました。しかし、内容が辛辣にイタイタしく、且つ、小汚いテクニックで読者を欺いている箇所が複数ありましたので、今回は、ほぼ全文を通して、これを確認していきたいと思います。やっぱり、エンタメメディアであっても、読者に対するあからさまな嘘はダメだと思うんですよ。では。

 

 

※スシ海洋水産大臣については「頑張れ!! 海洋水産大臣スシ姉さん」「インドネシア内閣閣僚名簿(ジョコ・ウィドド政権)」をご参照願います。

 

2016年5月5日 サンケイ記事タイトル:

【中国と闘うアジア】違法操業した外国漁船を次々爆破…インドネシアの女傑 スシ海洋・水産相の素顔に迫る

 

1. 本来目的は中国による南シナ海の実効支配に対する懸念だが

 

人工島建造などで南シナ海の軍事拠点化を進める中国。力による一方的な既成事実の積み上げに~ -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

タイトルと冒頭にあるようにこの記事の根底には中国による南シナ海の実効支配に対する懸念があります。アジアの一国である日本として自国の視点で、又は、他国の政策を日本国民に伝えることは日本メディアの努めだと思うのでそれ自体は称賛されるべきです。しかし、こういう重要な問題を語るためにハッタリをかまし、日本人読者を欺く手法を毎度取られると、彼らのナショナリスト的な発言自体を疑わざるを得ません。以下から内容がめちゃくちゃです。そして多くの読者はそれに気づきません。

 

2. 現政権が拿捕した中国船は一隻たりとも爆破されていない

 

インドネシアのスシ海洋・水産相(51)は、違法操業の外国漁船を拿捕(だほ)しては、船籍が中国だろうが容赦なくドッカーンと海上爆破し、国内漁師を中心に喝采(かっさい)を浴びている。入れ墨もある身体一つで成功を収めてきた、元実業家の女傑だ。-産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

容赦なくドッカーンって小学校の作文のような表現ですが、まず、事実として現政権が拿捕した中国船は一隻たりとも爆破されていません。現状拿捕された数少ない中国船は金で解決、又は裁判手続き中です。念のため記載しておきますが、法治国家インドネシアでは拿捕された密漁船は陸の上で裁判と言う法手続きを経た上で、船体処理の一手段として海底への沈が行われます。海上で拿捕した船から船員を下ろさせ、そのまま現場で爆破している訳ではありません。「拿捕して容赦なく海上爆破」という表現はそういう事実を知らない一般の日本人に向けた意図的なまやかしです。かれらはこの「インドネシアの漁船爆破」ネタを2014年からずっとこの姿勢で発表し続けており反省の色が全くありません。(参考:「インドネシアの中国船爆破と見当違いな某日本メディア」

また、スシ大臣率いる海洋水産省は、海外密漁船の取締りを強化しつつ、同時に国内では「トロール漁の全面禁止措置」、「30トン以上の外国建造船への営業許可暫定停止」、「海上での水産物の受渡トランシップメントの禁止」などの強行政策を敷いており、上記「国内漁師を中心に喝采を浴びている」というタンジュンな表現にも首をかしげざるを得ません。因みに日本政府は海洋水産省の政策に強い懸念を表明しており、在インドネシア日本国大使館公式ホームページにもその旨が掲載されています。インドネシアの現地メディア「じゃかるた新聞」によると現地の日系企業は悲鳴を上げているもようです。

このように冒頭からハッタリをかました後に、エッセンスとして「入れ墨の女傑」を入れてきました。エンターテイメントの始まりに相応しい序論だとは思います。スシ大臣に関してはその経歴及びプライベートな持ちネタ(中卒で、女性で、タトゥー持ちで、喫煙者で、航空会社社長で、西洋人との離婚歴etc)が豊富で、これとセットでミスリードな「中国船爆破」で落とすのが日本の低質メディアのトレンドです。

 

3. ソースを示さず低俗な意訳

 

「中国は大国で自国では強力に独自の法律を執行している。こちらにも同様の措置をとらせてくれるでしょう」。スシ氏は4月1日の記者会見で、拿捕しながら中国の監視船に体当たりを受けて奪われた違法操業容疑の中国漁船返還を中国側に求め、この漁船を「例外扱いせず」に爆破する方針を示した。-産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

これは2016年3月20日にインドネシア海域ナトゥナ諸島沖でインドネシア当局によって拿捕された中国漁船が突如現れた中国海警局の海警船によって奪還されるというセンセーショナルな事件に対するスシ大臣の発言です。なのですが。。。

まず、まだ現政権として拿捕した中国密漁船を一隻たりとも爆破出来ていないインドネシア政府が、既に中国に帰ってしまった密漁船を『「例外扱いせず」爆破する方針』という支離滅裂な文章。前提自体が既に崩壊しているのですが、3月20日以降何度も発表されたスシ大臣の発言の中でどうしてわざわざ10日後の4月1日の記者会見内容を引用したんだろうと思ってネットでソースを漁ってみたんですが、センセーショナルな発言にも関わらずなかなか見つからない。しかし、わざわざ時間かけて検索したというレベルで上記の単語を複数含んだ4月1日当時のスシ大臣の発言を発見しました。Afp系の英語ソース。インドネシア国内でのオリジナルは発見できず。スシ大臣の発言は直訳で以下の通りです。

 

「中国は健全な法執行機関を備えた偉大な国です。中国船が密漁を行っていたとしてもそれをバックアップするようなことはしないでしょう。彼らが船舶を引渡して私を尊重してくれると信じています。大国が小国を苛めるようなまねはないでしょう」

(原文:I do believe China is a great country, with good law enforcement, and they do not back illegal fishing, even if it is done by Chinese vessels. I think as a big country you cannot bully small countries.)

 

これがサンケイの意訳を経由すると「中国は大国で自国では強力に独自の法律を執行している。こちらにも同様の措置をとらせてくれるでしょう」= で、爆破!(爆 となります。英語の原文はコチラ。この記者はこういうことを平気で行っています。サンケイの記事で爽快感を感じていらっしゃる読者の皆さん、ちょっとコケにされてると思いませんか。

 

ただし、事件直後からスシ大臣は中国に配慮しながらも同国の横柄極まる態度に懸念の意を表明しているのは事実す。彼女は「国連海洋法条約のいかなる箇所にも”伝統漁場”なる定義は認められていない。国際的に認知されていない中国の一方的なモノ言いであり、彼らの主張は根拠も無く、明らかに誤っている」と中国を牽制しながらも、「インシデントは作りたくなかった。我々は友好国だ。当然、主権を守り抜きたかったが深刻となりうる摩擦は避けねばならなかった。死人が出れば状況は変わっていた」と外交的配慮も忘れません。海洋水産省としての中国に対する懸念は当然あり、問題は複雑でしょうが、サンケイは「はい、スシ水産、インドネシア、中国爆破」です。わかりやすいし楽しいですね。どうして四大新聞の一紙ともあろう巨大権力組織が、全うな国際問題を語る上で、こういう低質なテクニックに走らざるを得ないのか、これは日本に対する少しネガティブな懸念事項だと思います。尚、このインドネシア・ナトゥナ海域での中国船奪還事件についての詳細は「中国海警局海警船による中国密漁船の強行奪取とインドネシア領ナトゥナ海域」をご確認下さい。

 

4. インドネシアが沈めまくった密漁船176隻中、中国密漁船はたった1隻

 

2014年の就任以来、操業違反が裁判で確定したとして、スシ氏が「見せしめ」に海上爆破処置した外国漁船は150隻以上。自国船が処分にあったベトナムやマレーシアなどは「法の支配」でインドネシアと足並みをそろえる。だが、中国はそうはいかない。 -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

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定番の爆破シーン

ここで実際にインドネシアに沈められた違法操業船の数を確認をしてみます。2016年4月現在、インドネシア政府によって沈処理された船舶数は176隻。内訳は、ベトナム船63隻、フィリピン船43隻、マレーシア船30隻、タイ船21隻、インドネシア船14隻、パプアニューギニア船2隻、ブルンジ船1隻、国籍不明船1隻、そして中国船1隻です。冒頭で私は「現政権が拿捕した中国船は一隻たりとも爆破されていません」と述べましたが、過去に1隻の中国船が沈処理されています。インドネシア民族覚醒の日である2015年5月20日、インドネシアではイベント的に不法操業船41隻に対する一斉撃沈処理が行われましたが、その中にこの中国船が混じっていました。しかし、この船、実は2009年、前政権ユドヨノ大統領時代に拿捕されて当局にて保管されていたものです。6年前の話です。この中国船の撃沈処理は当時、現地メディアではまともに取り扱われませんでした。というのも、インドネシアでは、これまで何度か中国の大型船を拿捕してはきましたが、裁判では全ての中国船籍に対する刑罰が罰金で済まされており、小国の船は簡単に沈めるが中国船は沈められないのかとメディアの失望感を買っていたからです。現政権が拿捕した中国船を一切沈めることが出来ずに前政権時の船1隻を沈めたことを大きく取り上げては、国の恥です。本件についてはスシ大臣自らが無念の意を表明しています。因みに日本の某メディアはこれをセンセーショナルなハッタリで取り上げ(要するに読者を欺いて)、直接本件と関係がない遠く日本では非常に盛上ってしまいました(フェイスブックで一万近いおすすめを得ています)。タイトルは毎度『中国不法漁船を爆破 インドネシアが拿捕して海上で 「弱腰」から「見せしめ」に』です。本件についての詳細は「インドネシアの中国船爆破と見当違いな某日本メディア」をご確認願います。

 

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海軍による撃沈パフォーマンス

さて、ここで一つ疑問が上がります。日本のメディアは(当サイトでもそうですが)、インドネシアでの密漁船問題について、毎回のように中国と結び付けて報道する傾向があります。実際に中国船がインドネシア海域で不法操業を行っているので、それはいいのですが、上記、沈処理された船籍数を見てあれって思いませんか。各国176隻もの船を沈めまくっているインドネシアにおいて、中国船の沈処理は、2009年に拿捕された1隻だけだということを。この数字上だけで判断するのなら、インドネシア海域での中国船の不法操業は「イレギュラー」と言ってもいいと思います。それでも「いやいや、数多くの中国船がインドネシア海域に侵入して密漁を繰り返しているに決まってるじゃないか」というなら、インドネシア政府はそれを全て見逃しているか、裏でそれなりの組織が協業してうまく中国船を逃しているかということになり、中国に対するインドネシアの強行政策は素晴らしいと煽る日本の大手メディア及びその周辺の煽りメディアの言っていることとは矛盾しますね。因みに、インドネシア海軍中将ウィドド氏によるとインドネシアで密漁を繰り返す国について、「フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、そして一部、中国や日本といった国」と述べています。数の上で、日本の密漁船と中国の密漁船は同格に語られています。国防的に中国は当然、潜在的脅威である訳ですが、インドネシア海域内での密漁に関する中国船の位置付けはこの程度だということです。上記記事では「だが、中国はそうはいかない」とか煽りはしていますが、インドネシア海軍中将的には中国不法漁船の脅威は、日本漁船並みということみたいですので。

次行きます。以下、一部、小手先の指摘もありますが、そんなのばっかりなので敢えて全部つっこんでおきます。

 

5. 日本までは飛んでこない

 

スシ氏の実業家としてスタートは1983年、出身地の西ジャワ州パンガンダランの市場で始めた水産物卸業 ~略~ 2004年には、シンガポールや香港、日本といった市場に新鮮な商品を届けるため、自ら航空会社を設立。-産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

この文章読んだら、「え、日本にセスナ飛ばしてたの?」ってなりませんか。控えめに日本を三番目に書いているところには好感を持てますが(どうしても人気者のスシ大臣を親日にしたいとリードするメディアもあったので)、これは地方からジャカルタへの迅速な輸送手段を確保するためという意味で、日本へ飛行機を飛ばしていたわけではありません。細かいことで恐縮ですが、このように少しずつずらす表現が散見されますので。

 

6. ナショナリズム的なパフォーマンスの側面も

 

2014年に発足したジョコ政権で閣内に呼ばれ、「海洋大国」としての復興を目指す同政権で、海洋・水産相に抜擢(ばってき)された。ジョコ氏は、密漁による漁業被害が年間200億ドル(約2兆2000億円)にのぼるとして厳格な対応を指示。スシ氏は就任以来、外国漁船の不法操業取り締まりと、見せしめの拿捕漁船爆破を続けている。-産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

実際は外国船を含め国内外の漁業全般に対しての規制であり、インドネシア船も14隻沈められていますが、この爆破パフォーマンスは、対外的な敵を具体的に見せることで国内のナショナリズム的な一体感を高揚させるための方法としても成功を収めています。派手な絵をメディアに流し続けたパフォーマンスに、視覚的に飛びついた各海外メディアの追随具合からも効果のほどが見られるのではないでしょうか。インドネシアでも当時は連日のように爆破ショーがテレビで繰り返して放送されました。 因みに、密漁船拿捕が始まり、同時にジョコ大統領が「拿捕はいい、直接沈めてしまえ」と政治的パフォーマンスを開始した2014年17日の翌日、インドネシアでは歴代政権で鬼門とされてきたガソリン値上げ政策が実施されました。

 

7. はたして漁獲高は本当に増えたのか?

 

英フィナンシャル・タイムズ紙(電子版)によると、昨年の漁業部門の成長率は8・4%と、前年の7・4%から上昇。ある漁港では、毎年900トンだった漁獲量が1300トンに増え「スシさま効果だ」と、これまで放置されていた外国漁船による違法操業取り締まりの効果を称賛する声が多い。-産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

上記の通り、インドネシア海洋水産省によると、2015年度漁業生産高は前年比8.4%の上昇、267兆ルピア(約2兆円)であったとのことです。以下グラフ参照。

 

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kompasより引用

素人目に考えて、「トロール漁の全面禁止措置」、「30トン以上の外国建造船への営業許可暫定停止」、「海上での水産物の受渡とランシップメントの禁止」それに伴う投資の減退の中、地元小規模漁民に恩恵があったとしても、この生産高アップは少し不可思議に見えました。しかし、おめでたいサンケイ記事は「スシさま効果だ」でおわり。やる気が感じられません。 現地有力メディアKOMPAS.comによると、これまで多くの大型漁船所有企業及び個人が100総トン級を20総トンとして登録するなどの不正手続きを行っており、これが原因で、今まで正確なインドネシアの漁獲高が測れなかったとのことです。ちなみに2015年の漁業生産高がアップしているにも関わらず、輸出高は47.9億ドルから36億ドルへ25%ダウンしています。下記グラフ参照。

 

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kompasより引用

 

海洋水産省ではこの輸出額ダウンを、海外の購買力の低下によると述べていますが、原因はそれだけなのでしょうか。漁業生産高は8.4%の上昇ですが、2015年当年のインフレ上昇率は6.36%。これに加えて、海洋水産省が船舶登録の規制強化を行ったために、額面上税収に関わる生産高は上がって見えますが、実際の漁獲高は、他国との金銭取引で示される輸出額の減少と同様に、実際は下がっているのではないかと私は思っています。まあ、サンケイレベルだと「スシさま効果だ」で終われてラクチンでいいんですけれども。

 

8. 具体例と検証がなく、軽い文体

 

もっとも、「爆破処置は行き過ぎたパフォーマンスでしかない」との指摘や、「中国などとの外交摩擦への配慮がなさ過ぎる」との批判があがる。 -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

ナショナリズムの強いインドネシアでは、「中国などとの外交摩擦への配慮がなさ過ぎる」などという批判は原則的に出てきませんし、外国船に対する爆破ショーは国民の支持を得ています。政策に対して批判や指摘が出るのは当然ですが、スシ大臣の一連の政策と彼女の功績・人気を結び付けて今まで記事を書いてきて突然何これって感じです。

 

さらには、イスラム教徒女性でありながら愛煙家で、絶えず煙をたなびかせている素行も攻撃対象となる。大学も出ていない -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

スシ海洋水産大臣に関しては、外見やライフスタイルばかりが注視されがちですが、「イスラム教徒女性でありながら愛煙家」ってさらっと言ってのけるところは配慮がありません。イスラムの教えと喫煙は、当のイスラムでも議論となりうる問題ではありますが、世界最大数のムスリムを擁するインドネシアは、世界の一位、二位を争う超喫煙大国でもあります。インドネシア女性の喫煙率も年々上がっており、保健省によると2013年時点で6.7%に達したとのことです。市場のおばちゃんばかりでなく高学歴の女子大生らがファッションで煙草を吸うシーンも見られます。

そして「大学もでていない」はその通りですが、それ以前に、彼女は高校を出ていません。

 

これほど敵が多いにもかかわらず、政権発足以来、内閣改造を経ても職にとどまっていられるのは、ジョコ大統領との「近さ」にある。スシ氏の長男が今年1月に心臓疾患で31歳で死亡した際、ジョコ氏夫妻はその通夜に真っ先に駆けつけた。 -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

「これほど敵が多い」とのことですが、ただの一人として具体的な敵を示していません。何なんでしょう。このライトタッチは。ただし、一連の強行政策から多くの敵をつくってきたのは事実です。政界ではユスフ・カラ副大統領との関係がぎくしゃくしており、2016年3月、副大統領はスシ大臣をマルク及び北スラウェシへの共同現地視察に誘っていますが、スシ大臣はこれをキャンセルしています。副大統領は現地視察の後、「海洋水産省の一連の政策による地元漁業の疲弊が見られ、同省には政策の検討を促す」といった旨をスシ大臣及びジョコ大統領に対して報告してます。彼は日本の経済界とも関係が近い政商的な立場にもあります。漁業関連企業からの要請を受けて調整的な役割を担っているようにも見えます。

また、「内閣改造を経ても職に留まっていられるのはジョコ大統領から近いから」とのことですが閣僚34名の中で交代したのは4名だけです。たしかにスシ大臣のご子息が亡くなった際、ジョコウィはジャカルタのスシ大臣邸を訪れていますが、同じ1月6日には、PDIP党から入れ込みで途中入閣したプラモノ内閣官房長官の母親の葬儀にも訪れており、ジョコウィとは、もともとそういうタイプの大統領です。スシ大臣のもとへは大統領の他、各大臣も参列しています。

 

9. ここまでテキトウに遊んでいきなり結論(中身が空)

 

中国は、南シナ海の領有権問題で、フィリピンやベトナムに対しては高圧的ととれる対応に終始している。だが、地域最大の大国で東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主を自他共に認めるインドネシアとの対立は避けたいところ。世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシアとは、過激派対策での協力も欠かせない。 -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

で、上記がサンケイ記事の結論です。南シナ海・ナトゥナ海域にはアジア最大級、46兆立方フィートもの天然ガスが眠っているとも言われています。そして、そのナトゥナにはINPEX(国際石油開発帝石株式会社)をはじめとする日本企業が原油・天然ガスプロジェクトに参加し権益を取得しています。また、同海域は西からマラッカ海峡を抜けた先にあり、更に南シナ海から東シナ海、そして日本へ抜けるシーレーンのハブ的海域として地政学的にも重要な地域です。こういった日本を含めた各国の国益や国権にも関わる重要な地域問題に対して、それすら触れず、深堀もせず、よくぞ「スシ海洋水産大臣!中国爆破!」みたいな当サイトレベルのおちゃらけノリで、しかも意図的に読者を欺いた記事で埋めてくれました。おかげで、何も知らない日本人の多くがこれらのテキトウ情報を鵜呑みにせざるを得ず、結果、これだけの「いいね」と「ツイート」を獲得しました。日本メディアにも、もっと書くべき内容はあると思います。

 

今回のインドネシアバンザイなサンケイ記事に共鳴した方々が、前回のインドネシア高速鉄道問題で同メディアが書いた「中国の高速鉄道を選んだシャブ漬けインドネシア」記事にも賛同していたのかはわかりませんが、最近の日本メディアによるインドネシアをダシにした嫌中記事や番組は、頭を使わずに優越意識を満たすための爽快な演出が多すぎます。トレンドが多数の元々何も知らない人に向けて仕組まれるのなら、正しいもん勝ちではなくやったもん勝ちという残念な結果につながる可能性もあります。人が知らない情報を提供するのがメディアの役目だとすると、これらの無責任な記事や、こういった内容が安易に許容される現状はやはり危なっかしいと思います。今回に関しては、テーマがテーマだけに更に残念でした。

 

※安倍首相とサンケイのシャブ漬け発言は何の関係もありませんので念のため。

 

 

10. おまけ

 

スシ氏は、中国にとり「頭痛の種」となっている。(了) -産経ニュース 【中国と闘うアジア】

 

爆破記事のラスト。ただし、既にお伝えしたように中国船は拿捕数も少なく、沈められた船は2009年に拿捕された一隻のみ。海洋水産省は国軍でもありません。残念ですが、スシ氏は、中国にとってそこまで「頭痛の種」とはなっていないでしょう。蛇足ながら日本にとって「頭痛の種」はどこにあるのか、それは本文でくどく述べさせていただきました(了)

 

 

引用:
日本政府による海洋水産省への批判 在インドネシア日本国大使館
スシ海洋水産省の業績や課題 Kompas.com
AFP系のスシ大臣発言記事 dailymail.co.uk
爆破船籍の内訳 mongabay.co.id
海軍中将の密漁船発言 liputan6.com
インドネシア女性の喫煙率 tribunnews.com

 




 


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