インドネシア高速鉄道起工式と懲りない大手日本メディアの面々 -インドネシア高速鉄道報道から浮かび上がる「日本の寂しさ」-

目次

1. 「インドネシア高速鉄道」起工式
2. やはり騒ぎ始める一部の日本メディア
3. 「認可手続きも終わっていないのに見切り発車」という報道
4. 「インドネシア高速鉄道起工式」に合わせて特集を組んだ毎日新聞
5. 大晦日も元旦も中国への嫉妬心に占領された毎日新聞
6. 日本大使館も冷静さを失い日本の恥を晒した
7. インドネシア高速鉄道報道から浮かび上がる「日本の寂しさ」

 

1. 「インドネシア高速鉄道」起工式

1月21日、日本で大きな物議を醸した「インドネシア高速鉄道」の起工式が西ジャワ州ワリニで執り行われました。総工費約55億ドル、ジャカルタとバンドン140kmを結ぶ本プロジェクトは、これより2018年の工事完了、2019年の操業を目指し稼働を開始します。2015年12月31日にASEAN経済共同体(AEC)という東南アジア自由経済の枠組みが発足し、必ずしも生産性で優位な立場にあるとは言えないインドネシアのジョコ大統領は本起工式において、「決定や建設にスピード感を持つ国が国際競争に勝つ。高速鉄道はその一つだ。物資と人材の動員は、今後国際競争力を勝ち抜く後押しとなる」と述べました。本案件は鉄道建設のみならず、駅周辺を中心とした地域経済への開発プロジェクトとセットで考えられており(詳細は当サイト「日本メディアとは趣きが異なる現地メディアの記事」をどうぞ)、日本メディアで強調されがちな「1分も遅れない正確性」「一人の死者も出さない安全性」というキーワード自体を中心とした議論は、無いとはいいませんがインドネシアではあまり聞かれません。

 

2. やはり騒ぎ始める一部の日本メディア

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起工式の様子。ジャカルタ知事アホックの姿も

さて、今年に入っても、元旦早々、一部日本メディアでは「インドネシアの高速鉄道計画に大幅な遅れ」「起工式のめどもたたない」等の報道がなされ、「後進国インドネシアと忌まわしき中国が行うプロジェクトのずさんさ」をなんとか伝えようと必死でした。彼らには残念な話ですが、実際のところ起工式までの進捗は良好です。具体的にいうと、もともとインドネシア側建設主体であるコンソーシアムPSBI(PT Pilar Sunergi BUMN Indonesia)の意向で2016年4月に開催予定であった本起工式が、インドネシア政府のプレッシャーもあり、予定より2か月早い1月21日開催に繰り上げられたというのが正しい見方です ※1。 過去のインドネシアのインフラ案件を考慮すれば、スケジュールが遅れるのはむしろこの後でしょう。ジョコ大統領はジャカルタ知事時代にも、ペンディング状態のモノレール建設案件を復活再生させる過程で、建設主体企業との契約以前に起工式自体を盛大に行い、結果として、このプロジェクトを見事に廃止に至らしめたという忌々しい過去があります。インドネシア張付き日本人記者がどうしてこの辺を突っ込まないのか不思議でなりません。また、バンドン市長リドワンカミルは起工式当日に「現地雇用人は8万人」とツイッターで述べましたが、同市の労働社会局によると具体的な求人依頼が上がってきていないという話もあり、起工式が行われたからといって、その後速やかに工事が開始されるという訳でもなさそうです。

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起工式の様子。石碑に署名を刻むジョコウィ

2015年11月22日の「安倍首相がインドネシア大統領に失望発言疑惑」以降(この話は個人的に傑作でしたので時間がありましたら当サイトの「安倍首相は本当に「失望」をリアルにジョコ大統領へ伝えたのか?」をご笑覧ください)、高速鉄道ネタには比較的静かであった日本メディアですが、1月21日の「インドネシア高速鉄道起工式」を機に、やはりまた騒ぎ始めたので、彼らの記事のレベル、更に今回は、本件の周りに鬱積する日本メディアの偏向報道の本質を見ていきたいと思います。

※1 具体的に示すとPSBIの主体であるWijaya Karya社が10月13日に「もし認可手続きが完了していれば2016年1月に起工式を迎えられることを望む。ソフトローンチは11月か12月」と表明し、PSBI代表も10月16日に「起工式ではないがローンチは11月9日」と述べ、更に11月24日に「現在、各種認可手続きの承認待ちだが、2016年の第二四半期(インドネシアでは4月)初めに起工式を行いたい」と述べています。これが毎日新聞にかかると「起工式はたびたび延期され、今も着工のめどは立たない」(2016年1月1日毎日新聞朝刊)という真逆の表現になってしまっています。いきり立つのは勝手ですが少し困った表現です。

 

3. 「認可手続きも終わっていないのに見切り発車」という報道

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当日のYahoo トップページ

毎日新聞が「起工式は延期、着工のめどは立たない」と見当違いのニュースを発表する中、インドネシア高速鉄道起工式を扱った日本の主要メディアの論調は「見切り発車」です(参考:google検索結果 )。各社のタイトルは「スピード着工『見切り発車』疑問視も」(読売)「2019年開業目指し“見切り発車” 用地確保も難航」(産経)、極めつけは「中国 許可なく高速鉄道を起工」(Yahoo Japanのヘッドライン。インドネシアは南シナ海の人工島ではありませんって。笑)。 彼らが起工式を「見切り発車」と表現した根拠は「インドネシア政府が、工事に必要な各種認可手続きの一部を完了する前に起工式を先に行ったから」です。これは日本社会的には正しい表現だと思います。事実、起工式前までに工事の必須条件である「建設許可」(運輸省管轄)の発行が間に合いませんでした。ただし、インドネシア的には、起工式を行うために必要な「トレース許可」「会社許可」を既に運輸省から、また、「環境アセスメント」を環境森林省から(口頭ベースみたいですが)取り付けているため、起工式開催自体はルール上、問題ないとのことです。そして、運輸省はイグナシウス・ヨナン運輸大臣が当日の起工式を欠席してまで「建設許可」の早期発効のために尽力しています。余談ですが歴史的な高速鉄道の起工式にインドネシアの運輸大臣が出席しないのは異常事態です(政治的にも)。認可手続きが迅速に進んでいるのは事実でも、問題なく進んでいるかというとそれは又別の話で、ヨナン大臣も「建設許可」は他の「手続き的なライセンス」と違いインフラ工程と安全性に関連した技術的・研究的なものだと述べ、環境アセスメント他全ての許可が揃わない限り建設許可は出せないと「建設許可」が起工式に間に合わなかった旨を説明しています。プロジェクトのずさんさを突きたいメディアはこういうところを突いていけばいいのにと思います。

漢字をバックに演説を行うジョコウィ。スハルト時代には考えられなかった光景
漢字をバックに演説を行うジョコウィ。スハルト時代には考えられなかった光景

また、環境アセスメントに関しても環境森林省の担当部門が、「KCIC(インドネシア・中国高速鉄道社)のレポートには不明瞭な点が多く、インドネシアでは乾季と雨季の両データの検証も必要」として、アセスメントの早急な認可に否定的な発言を起工式直前にしていました。これに対して、シティ環境森林大臣自身は「手続きに則った適切な結果」として、起工式当日に環境アセスメントへの認可を発表し省内の矛盾を露呈させています。本件に関しては、「案件を走らせながら修正していけばよい」と述べたユスフ・カラ副大統領の発言が印象的です。以前からジョコ大統領(ジョコウィ)は速やかな各種認可手続きを関連機関に対して何度も強く要求しており、彼のマネジメントは「石橋を叩き割る」タイプではなく「チャレンジ型」即ち「見切り発車」型であることがよくわかります。こういうタイプの経営者の元で働いたことがある方ならわかると思う、あの感覚です。実際ジョコウィは、ソロ市長時代からインドネシアのいわゆる官僚主義的なプロセスを嫌っており、市長時代の彼の武勇伝の一つに「3週間かかっていた住民票発行手続きについて、エンジニアにシステム的にはどれだけ時間がかかるか問いただし、8分との回答を得て村長らを召集。1時間で対応するように要請し、『無茶です。最低でも3日は必要』等述べた村長らを即クビにした」という逸話もあります。そして、起工式に参加した西ジャワ州知事アフマッド氏は今回の高速鉄道建設に関連する各種手続きについて「政府の行う今回の認可手続きはインドネシア独立以来、史上最速の早さだ」と最大限の賛辞を惜しみませんでした。

このように、日本メディアの「見切り発車」という表現は「認可手続きの遅れ」に対する「起工式の早さ」を指摘しましたが、インドネシアでの事情を見る限り「認可手続きの早さ自体」を捉えて「見切り発車」とした方がしっくりきそうです。にもかかわらず、インドネシア政府は認可手続きの成果をよしとしていません。大統領からの再三の指示にも関わらず、1月21日までに現場は全ての手続きを完了させることが出来ず、結果、当日の内閣官房サイトには、高速鉄道に関する記事を3本も掲載して本プロジェクトの発進を讃えながら、大統領が気にかけていた「認可手続き」に関する説明は一切ありませんでした。

 

4. 「インドネシア高速鉄道起工式」に合わせて特集を組んだ毎日新聞

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起工式の様子。更地にクレーンが入る。

さて、2016年1月14日に発生したジャカルタテロの1週間後であり、インドネシア高速鉄道起工式が執り行われた1月21日、日本の大手メディア毎日新聞は朝刊の総合面トップに「ジャカルタテロ」、オピニオン面に「インドネシア高速鉄道」を特集で掲載しました。毎日新聞は、前日にパキスタンのテロで少なくとも20名以上が亡くなっている中、平時のインドネシアニュースに大胆に2ページも割く稀な国際感覚を持つメディアで、事実に近い報道をしてくれるならインドネシア関係者にとってもうれしい話なのですが、「日本案を採択しなかった格下後進国インドネシア」に対する「あるある」ネタや偏向的な報道、高速鉄道起工式当日に当ててくる周到ぶりに再度、がっかりさせられましたので、今回も記事の内容を駆け足で確認していきたいと思います。ソース記事は「インドネシア新幹線、受注失敗 インフラ輸出再考せよ -毎日新聞」です。リンクはコチラ。(因みに彼らは去年の高速鉄道案採択時も、少しおかしな報道をしていました。詳細は「日本メディアのおかしな報道と後出しジャンケン」をどうぞ)では。

 

新幹線がどんなに優れていても一方的に売り付けるだけでは、相手国の自尊心を傷つけてしまう。導入調査の予算を援助し、実務を担うコンサルタントも派遣したが、調査の主体はあくまでもインドネシア政府との体裁を取った。-1月21日毎日新聞朝刊

 

まず、これはお客に対する言葉ではありえませんね。発展途上国に対してばら撒き援助を行うNGO団体の文句と構造が同じです。してあげた、してあげた、してあげた。そして相手側のニーズや現実は直視しない。無償の井戸掘りは拒否されませんが、残念ながらこれはビジネスです。失注後に「社長!あのプライドの塊の連中にも、予算を援助してあげた、コンサルも派遣してあげた、体裁まで取ってあげたのに」などと堂々と失注自慢する営業マン、やばくないですか。因みにこれは毎日新聞というメディアが述べた感想に対する批判です。現実に交渉を行ってきた人々は、易々とこういう失言を吐きはしないでしょう。

 

深刻だったのは情報の流出だ。 ~中略~ そこから中国に流出するのは容易で、中国はわずか数カ月で「ルートも駅の位置も同じで日本のコピーにしか見えない」(インドネシア運輸省幹部)報告書をまとめて日本に対抗してきた。-1月21日毎日新聞朝刊

 

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ジャカルタ-バンドン高速鉄道ルート

これは前回も当サイトで紹介したので詳細説明は「日本メディアのおかしな報道と後出しジャンケン」に譲りますが、簡単にいうとそれまで裏を取るような取材をしてこなかった毎日が、高速鉄道失注確定後の去年9月30日に突如、「インドネシア運輸省の某幹部に対する取材結果、『親中派』が日本の行った調査結果を中国側に流したことが判明」というスクープをすっぱ抜いたというものです。「日本のコピー」という中国批判の門切り型を副題に用いたこのニュースはインパクトも大きく、他の2ちゃん系、キュレーション系、個人ブログレベルの地域サイトが飛びつきました。私も興味がありましたので、この記者にはぜひ、具体的に内容を追ってほしいと前回も書きましたが、やっぱり今の今まで放置です。コピーしたと騒いだだけで、詳細の進捗が一切ありませんでした。残念です。ついでに申し上げておきますと、「ルートや駅の位置も日本案と同じで情報流出した結果」とのことですが、この程度のものは、ジェトロが正々堂々と公式サイトに経済産業省による「インドネシア・ジャカルタ~バンドン間 高速鉄道導入検討調査報告書」としてアップロードしており、誰でも閲覧可能です。(→こちら1、PDF 2、ページ)。更にダメ押ししておくと、日本案と中国案双方の報告書を確認した公共政策評論家のダナン氏によると、「日本と中国の高速鉄道提案書を見て驚いた。2案に関わりがなく、比較が出来なかった。違う計画パラメータを使い、分析深度も基準が違う日本はフィジビリティスタディ、中国は概念調査建設予定駅もばらばらで一方はドゥクアタス発バンドン市着、一方はハリム発、グデバゲ着まるで寿司と点心を比べているようだった。比較分析など不可能だ」と言わしめています。毎日新聞は前回記事でも、見積金額以外は全部コピーとか言ってましたよね。ソースを全く示さない大手メディアのエンターテイメントな戯言は時々こういうことを平気で行うので注意が必要です。

 

首都ジャカルタではつい数年前まで、通勤電車の屋根の上まで乗客があふれかえっていた。乗り合いバスはドアを開けたまま走り、路上で故障しているのをよく見かける。交通渋滞は世界最悪とも言われ、3キロ進むのに車で1時間以上かかることもある。日本の新幹線がアピールする「死亡事故ゼロ」や「1分も遅れない正確な運行」は理想ではあっても、インドネシア庶民の日常感覚からは異次元の話だ。-1月21日毎日新聞朝刊

 

失注したとわかれば、裏を返して客の悪口をいう。蔑んでます。日本の新幹線はインドネシア庶民にとっては異次元の話とか、翻訳されると困るので本当にやめてほしいものです。ついでに言うと、現在、ジャカルタの通勤電車は国鉄社長時代の現運輸大臣イグナシウス・ヨナンが筆頭となり鉄道環境が大きく改善されたことは在インドネシア邦人にも広く知られている事であり、その環境下でJR東日本の中古列車205系などが大活躍しています。乗合バスも現在、ジャカルタ知事のアホックを中心にアグレッシブな改革が進行中。「交通渋滞は世界最悪」はその通り。東京には485,675台(一般財団法人 自動車検査登録情報協会 2014年)しかないバイクがジャカルタではその27倍の13,084,372台(AntaraNews.com 2014年)走っています。ほぼ100%日本メーカーです。自動車しかりです。日本で売れないから我々はインドネシアを含む諸外国で営業を行っているのでしょう。更にいうと、日本のインドネシア駐在員は何らかの形でこの自動車産業の恩恵を受けながらジャカルタでの営業活動を行っているのです。それを一案件失注しただけで「世界最悪」とかいう書き方がよくできたものだと思います。別にインドネシアを擁護したい訳ではありませんが、大人のオブラートを被せた風なこのガキっぽい文章が一般日本人に受け入れられ「あるある」エンターテイメントのネタにされることにイラッとくるのです。

 

中国案は受注後、資金調達や路線認可取得に四苦八苦し、予定通りに完成するかは疑わしい。日本案が採用されていれば順調に進んだかもしれないが、入り口で中国に競り負けては元も子もない。-1月21日毎日新聞朝刊

 

既に既述したように、認可については政府的には四苦八苦していません(おかげで現場は別の意味で四苦八苦しているでしょうが)。西ジャワ州知事に「インドネシア独立以来、最速のスピード」とまで言わしめました。4月予定の起工式を1月21日に早めもしています。「中国案は資金調対と路線認可に四苦八苦、日本案が採用されれば順調にすすんだ」も、その根拠を示さず「かもしれない」って読んでてひっくり返りそうになりましたよ。

 

大型インフラ輸出の多くが日本政府からの公的援助を前提としており、もし失敗すればツケは日本の納税者にも回ってくる。私たちはなぜインフラを輸出するのか。その意義を一人一人が改めて考える時が来ている-1月21日毎日新聞朝刊

 

この文章は、この記事の締め、結論部分です。実は冒頭部分から「日本国内では『安全性や技術で優れている新幹線がなぜ』と衝撃が広がったが、敗因の分析で見えてくるのは、他国との競争を十分想定していなかった脇の甘さや、技術への過信だ」という記載で始まったこの記事、なるほど、今回はそれなりのことを書くのかと最初少し期待しましたが、フタを開けてみるや、上記で紹介した通り、冒頭導入の一文に対する反省は無し、過去記事の焼き回し、結論的には「こんな国に対しては我々の税金を使ってインフラ輸出をするな。オマエラよく考えろで締められてしまいました。

 

中国との勢力争いに気を取られるあまり、相手国民の生活向上や事業の採算性が後回しにならないか気掛かりだ-1月21日毎日新聞朝刊

 

そして、最後、おいおいおい、中国との勢力争いを気にするしないは勝手ですが、それをマスに対して煽ってるのはあんたらでしょう。以下に2015年12月30日から1月4日の間に毎日新聞朝刊一面トップを飾った内容をアップしておきます。一面トップの記事とタイトルは、12月30日「世界のむ中国原発」、12月31日「中国一路千金、海へ」、1月1日「高速鉄道 更地のまま」、1月2日お休み(笑、1月3日「ウイグル人報復の道」、1月4日「中国 漁船襲撃激化」です。毎日新聞は年末年始を通して中国に表紙一面をジャックされてしまいました。アーメン。

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毎日新聞 12月30日 朝刊一面
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毎日新聞 12月31日 朝刊一面
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毎日新聞 1月1日 朝刊一面
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毎日新聞 1月3日 朝刊一面
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毎日新聞 1月4日 朝刊一面

 

5. 大晦日も元旦も中国への嫉妬心に占領された毎日新聞

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毎日新聞 2016年元旦の一面 チャイナセンセーションという企画の一環

先にキーワード的に出した「計画に大幅な遅れ」「起工式のめどもたたない」は2016年1月1日の毎日新聞一面に掲載された記事の抜粋でした。「高速鉄道 更地のまま」と題した同記事には、インドネシアと中国の高速鉄道頓挫を願うがため15年9月に着工し3年以内の完成を確約するとかねてから宣言していた中国。しかし計画には大きな遅れ」と何も知らない読者にフェイクを送りつけます。言っておきますがインドネシアの公式な高速鉄道採択発表は9月29日ですよ。どうやって9月に着工するんですか? この記者はインドネシアニュース張付きの方なので、わかっていて書いているんです。痛くないですか。そして、「終わりよければ全てよし」「一年の計は元旦にあり」とは言いますが、毎日新聞購読者にとっての2015年と2016年は、我が国日本の話題ではなく、よその国の特集に占領された、中国フリーク以外にとっては最悪な締めと最低の開始となってしまったのではないでしょうか。年末年始ぐらいは日本の活躍と今後の反省を清い心でポジティブに展開してもいいと思うのです。

 

6. 日本大使館も冷静さを失い日本の恥を晒した

今まで、たまたま毎日新聞の記事をもとに少し嫌味な形でメディアの表現手法を確認してきましたが、これはなにも「毎日新聞だけが悪い」と言う問題ではないと私は思っています。胸焼けする内容ではあるけれども、これらの記事が成立するのは読者側が期待する「優越感」や「劣等感の裏返し」に訴えているからではないでしょうか。それを端的に示した小さな出来事が、在インドネシア日本国大使館の公式フェイスブックで起りました。日本大使館は、なんと、インドネシア高速鉄道起工式の当日、以下のようなメッセージをサイトに掲載したのです。

インドネシア語部分を訳すと「日本の新幹線は安全、快適、時間厳守、高速で知られますが、それだけじゃないんです。カッコよくて、ユニークなデザインでも有名」です。これをインドネシア高速鉄道起工式の当日に当ててきました。誰がアップロードしたかは存じ上げませんが、こんなみっともないメッセージを掲載できる館の仕組みとプライドに正直驚きました(幸い、翌日に削除されていました)。日本を代表する唯一の公的機関までもがこのありさまだという現実に直面し、これらの根はヤフコメどころか、既にひたすら深い深い魂の部分まで浸食してしまったのではないかと実感してしまった瞬間でした。

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翌日には削除された記事と写真

 

7. インドネシア高速鉄道報道から浮かび上がる「日本の寂しさ」

遂にこの寂しい精神のうぶすなたちが、戦争をもってきたんだ。
君達のせゐじゃない。僕のせゐでは勿論ない。みんな寂しさがなせるわざなんだ。
寂しさが銃をかつがせ、寂しさの釣出しにあって、旗のなびく方へ、
母や妻をふりすててまで出発したのだ。
かざり職人も、洗濯屋も、手代たちも、学生も、
風にそよぐ民くさになって。
誰も彼も、区別はない。死ねばいゝと教へられたのだ。
ちんぴらで、小心で、好人物な人人は、「天皇」の名で、目先まっくらになって、腕白のようによろこびさわいで出ていった。

 

~中略~

 

僕、僕がいま、ほんたうに寂しがっている寂しさは、
この零落の方向とは反対に、
ひとりふみとゞまって、寂しさの根元をがつきとつきとめようとして、世界といっしょに歩いてゐるたった一人の意欲も僕のまわりに感じられない、そのことだ。そのことだけなのだ。

 

突然ですが、これは大正~昭和を生き抜きヨーロッパやアジアを流浪した詩人、金子光春の詩「寂しさの歌」の一節です。

インドネシアの高速鉄道起工式が開催された当日にインドネシアに住むある日本人(某A氏とします)がツイッター上で、こう呟きました。

 

「これからは「寂しさに耐えられない日本人」がさらに増えると思う」

 

これは、直接的には、今回の高速鉄道起工式に関して、某日本人が典型的な「優越感」をもとにインドネシアと中国の悪口をツイッターで呟いていたことに対する感想だったのですが、おそらくこのフレーズの意味を実際に理解できた方は少ないはずです。

「寂しさ」とは劇作家の平田オリザ氏の言う「三つの寂しさ」のことです。この「寂しさ」について、私はA氏に以前、直接教えて頂きました。

平田オリザ氏は「三つの寂しさと向き合う」の中ででこう述べています。

我々日本人は、今、三つの種類の寂しさを、がっきと受け止め、受け入れなければならない。3つの寂しさとは、

 

一つは、日本は、もはや工業立国ではないということ。

もう一つは、もはや、この国は、成長はせず、長い後退戦を戦っていかなければならないのだということ。

そして最後の一つは、日本という国は、もはやアジア唯一の先進国ではないということ。

「三つの寂しさと向き合う」平田オリザ

 

そして、この中で一番辛いのが三つめの寂しさに耐えることという内容でした。少し長いですが共有させて頂きたく、以下に三つめの寂しさについての記述箇所全文を転用させて頂きます。

 

150年近く(短く見積もっても日清戦争以降の120年間)、アジア唯一の先進国として君臨してきたこの国が、はたして、アジアの一国として、名誉ある振る舞いをすることができるようになるのか。

その寂しさを受け入れられない人々が、嫌韓・嫌中本を書き、あるいは無邪気な日本礼賛本を作るのでしょう。

私たちはここで、大きく二つの問題について考えなければなりません。一つは、私たち日本人のほとんどの人の中にある無意識の優越意識を、どうやって少しずつ解消していくのかということ。ここでは、教育やマスコミの役割がとても大きくなるでしょう。現状が、それとは反対の方向に向かっているように見えることは残念なことですが。

もう一つは、この寂しさに耐えられずヘイトスピーチを繰り返す人々や、ネトウヨと呼ばれる極端に心の弱い方たちをも、どうやって包摂していくのかという課題です。これもまた時間のかかる問題です。

今年は、敗戦後70年の年です。戦後100年まで(それを戦後として迎えることができるのなら)、これからの30年間は、日本と日本人が、この小さな島国(厳密に言えば中途半端な大きさを持ってしまった極東の島国)が、どうやって国際社会を生き延びていけるかを冷静に、そして冷徹に考えざるを得ない30年となるでしょう。そのときに大事になるのは、政治や経済の問題と同等に、私たちの心の中、金子光晴が「精神のうぶすな」と呼んだ「マインドの問題」に向き合うことだと私は思います。

「寂しさが銃を担がせ」ることが再び起こらないように、私たちは、自分の心根をきちんと見つめる厳しさを持たなければなりません。寂しさに耐えることが、私たちの未来を拓きます。

「三つの寂しさと向き合う」平田オリザ

 

どうやら、我々は、知らないうちに日本の大きな転換期、日本の未来の正念場に向け、同じ空間を生きているみたいです。果たして我々はメディアや教育の弊害部分を十分認識しながら無意識の優越意識を解消し、良き方向性を子孫に繋ぐことが出来るのでしょうか。痛みに耐えながらアジアの一員として紳士的に成熟の道を辿ることが出来るでしょうか。そんな中、インドネシアに限らず世界各国、日本各地で努力し、活躍する日本人が沢山います。そんなことはわかりきっています。日本のメディア関連の皆さん、未来に向け努力する彼らのためにも、負け犬の遠吠えめいた優越感の具現化はそろそろやめにしませんか。

長文になってしまいましたが、インドネシア高速鉄道報道問題を通して、一番言いたかったことがこの「三つの寂しさ」に凝縮されています。無意識の優越意識の解消は、インドネシアと関わりを持つことになった私が「三つの寂しさ」を知る以前からの大きなテーマでもあり、それを具体的に語る文章に巡り合えたことに自分は感謝しています。

ここまでお付き合い頂き感謝しておりますが、私の拙くあまりに汚い言葉だけでなく、ぜひ、引用元である「三つの寂しさ」の原本を読んで頂きたいと皆様に、図々しくもお願いを申し上げるかたちで本編を終わりにしたいと思います。最後に、「三つの寂しさ」を教えて下さったA氏、「三つの寂しさ」を執筆された平田オリザ氏、そして私が尊敬してやまない金子光春に敬意を示しつつ、筆をおきます。皆様、ありがとうございます。

 

 

 

参考:

起工式でのジョコウィの発言 LIPUTAN6
バンドン労働社会局による雇用問題の発言 antaranews.com
Wijaya Karya社の述べた起工予定 detik.com
PSBIの述べた起工予定1 viva.co.id
PSBIの述べた起工予定2 tempo.co
起工式に必要な認可手続き1 detik.com
起工式に必要な認可手続き2 detik.com
環境森林省による環境アセスメントへのジャッジ antaranews.com
シティ環境森林大臣の発言 kompas.com
ユスフ・カラによる環境アセスメントへの発言 tempo.co
ジョコウィ武勇伝逸話 youtube
西ジャワ州知事の認可手続きに対する発言 detik.com
公共政策評論家のダナン氏による、日本案、中国案への評価1 kompas.com
公共政策評論家のダナン氏による、日本案、中国案への評価2 kompas.com
東京バイク台数 airia.or.jp
ジャカルタバイク台数 antaranews.com
平田オリザ氏「三つの寂しさ」politas.jp

 




 


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