安倍首相は本当に「失望」をリアルにジョコ大統領へ伝えたのか? -インドネシア高速鉄道報道とくだらない政治のお話

先日マレーシアで行われた安倍首相とインドネシアのジョコ大統領の会談で、 安倍首相がインドネシア高速鉄道受注結果について「失望」していると発言したとの報道が共同ソースで日本の各メディアに一斉に大きくとりあげられましたが、 タイミング的にも、ちょっとニュアンスがおかしいなと思って確認してみたら、面白いことがあったので今回はナンパに「失望」発言の真相に迫ってみたいと思います。(まあ、週刊誌レベルのネタです)

 

相も変わらず「新幹線」な日本メディア

日本のインドネシアにおける高速鉄道建設失注からもうすぐ二ヶ月。「インドネシア高速鉄道問題」は普段たいしてアクセスの無い本サイトにも実に多くの方々から訪問頂き、恐れ多くもシェアして頂いたことからもわかるように、日本では大きな関心が寄せられました。そして、この結果を一つの教訓や契機、又は全く無視して、日イ関係者は、時に気持ち新たに、二国間の発展に尽力、日々奔走されていらっしゃいます。

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笑顔で手をつなぐ安倍首相とジョコ大統領

さて、先日11月22日、マレーシアのクアラルンプルでは、ASEAN会議開催を利用して安倍首相とインドネシアのジョコ大統領による日イ二国間会議が実施されました。会談の内容は主に、投資、外交、防衛分野での協力体制、そして南シナ海問題への相互理解について。発電所、港湾建設などのインフラ建設協力の他、両国の安全保障分野の強化を図るため、外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)の開催が決定された他、南シナ海問題についてはジョコ大統領自らが「同区域の安全保障、治安維持は重要であり、国際法が重視されるべきである」と発言したことからもわかるように、両国にとって概ね好意的な会談内容であった模様です。本件に関してはインドネシア内閣官房公式サイトでも「安倍首相、ジョコウィ大統領との会談で『日本とインドネシアの関係は非常に良好だ』と述べる」とのタイトルでポジティブなニュアンスで発表されています。ジョコ大統領も「四月の会談、先日のトルコと続き、安倍首相とお会いできるのは非常に光栄」と写真の通り安倍首相と並んで笑顔のご様子。

ところがです。この会談内容について日本のメディアは「安倍首相、インドネシアの高速鉄道について『失望』」というスタンスで一斉に報道(まあ、一次ソースが同一の共同からだったので仕方ないのですが)。 「安倍首相 インドネシア」でgoogle検索したらこんなことになってしまいました。(グーグル検索のコピー → https://archive.is/upigv 毎回毎回、日本のネットメディアさんたちのGoogleジャックには辟易、勘弁してほしいところです。Google先生によれば「安倍首相」+「インドネシア」=「失望」ですからねー)

特に、約一週間前に起ったパリ同時テロに端を発する西欧諸国への直接的テロの顕在化、南シナ海での中国と米国の接近など国際情勢が目まぐるしく変化する中にあって、イスラム過激派テロ問題を直接抱え、南シナ海では中国と直接的に利害問題を抱えるアセアン諸国が集まるこの場で、日本のメディアはまだ「新幹線」。もう新幹線病と呼んだ方がいいのかもしれません(私も含めて)。 話はずれますがパリの多発テロの最中でもkamikazeだjibakuだとか国際世論とは一線を画した独自のテーマで盛り上がれる東洋の孤島の平和は、フラット化した現代の国際社会では危険な状態にあると私は思っています。こういう時、日本語以外の言語を習得していないことは情報アクセスの観点からもマイナスです。例えば、今回も以下のことは日本語では出てきません。

 

自民党の絡む日イ友好大船団が訪イ中にインドネシア「失望」発言などするのか?

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自民党総務会長二階氏や元商業相ゴーベル氏など錚々たるメンバー

私は安倍首相の「失望発言」ニュースを聞いた瞬間に違和感を感じました。隣国さんとの会談ですら、当の国家首席や大統領に対面向かって「失望した」など外交上、簡単に発言などしない日本が、経済関係が比較的良好なインドネシアに対して、わざわざアセアン会議を利用して二国間会議を設定し、その場でインドネシアの大統領に向かって「失望した」と発言したりするのでしょうか(その時点で二国間会議などしないですね)。 しかもです。安倍首相とジョコ大統領によって会談が行われたまさにその当日11月22日、日本からは自民党総務会長の二階俊博、福田元総理らを代表とした1,000名規模の超護送船団「日インドネシア文化経済観光交流団」がジャカルタを訪れており、これをインドネシアは好意的に迎えています(発表が1,000名なだけであって実際1,000名集まったかというとそれは又別の問題)。この団体は、インドネシアから日本への観光誘致などを目的として、日本とインドネシアの相互交流を促進させるべく、日本の政治家、自治体、経済界がジャカルタを訪問する一大イベントで、自民党が直接的に関わっています。インドネシア国営メディアのAntara Newsによると合計訪問者数は1,100名以上に上るとのことです。この自民党肝煎りの「日インドネシア文化経済観光交流団」が日本への観光誘致のためにジャカルタに到着した当日に、当の自民党総裁である安倍首相が受入国側の大統領に対し「あんたらには失望」発言。常識的に考えるとないと思うんですよ。(ちなみに私はアンチ安倍派やメディアリテラシーの無い人にネタを提供したいわけではありませんので念のため)

 

報道発表は内閣官房副長官によるもの

なんだかねーと思い、共同の英語ソースを確認してみました。今回の安倍首相「失望」報道の一次ソースは共同です。 すると原文にはこうあります「I am disappointed with the outcome, as Japan presented a feasible and the best proposal on the high-speed railway,” Abe was quoted by Deputy Chief Cabinet Secretary Hiroshige Seko as telling Jokowi.」なるほど、内閣官房副長官の自民党 世耕弘成氏が、首相はこういう風に述べたと発言しているんですね。安倍首相の直接の言葉ではない。内閣官房の言ったことだから首相の発言と同様だ!という意見はその通りだと思います。ただし、ちょっと押えておきたかったのは、海外のソースは引用紹介なので原則、「内閣官房副長官の世耕弘成氏によると安倍首相は~」と一文入れるんですね。ところがこの引用を入れた日本語のメディア記事を私はまだ発見できていません。ちょっと、ここのところを押えておいてください。後で面白いネタがでてきますので。そして次に行きます。

 

日本に気を使うインドネシア

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11月22日日イ二国間会議の様子

因みに、安倍首相の「失望発言」はインドネシアのメディアではどのように捉えられているのでしょうか。原則的には、高速鉄道受注は過去の話なので日本と違って現地メディアで大きく取り上げられるようなことはありません。探さないと出てこないレベルです。大手オンランメディアdetik.comでは、「ジョコウィ大統領によると会談中に高速鉄道の議論はなかった」としており、Kompas系オンラインメディアTribun Newsは「日本のメディアは、インドネシアは日本でなく中国寄りだとして安倍首相はジョコウィ大統領に抗議したとあるが、内閣官房サイトは、その点について触れていない」と述べ、その後「日インドネシア文化経済観光交流団」の訪イをインドネシアと日本の友好関係の象徴として紹介しています。

国に対してプライドを持つようにナショナリズム的な教育が施されているインドネシアですので、「日本がインドネシアに失望と我が国の方針を侮辱した」と、インドネシアのメディアが問題にし、大衆を煽れば読者は喜んで引っかかってくると思うのですが、興味がないのか非常に静かです。よく言われるインドネシアが親日国家ならば、逆に日本による「失望」発言の意味は大きく、メディアや政治家は本件をもっと大きく扱うはずなのですが、まあ、そんなところです。静かです。それどころか、ジョコ大統領は、交流団を率いる自民党の二階俊博氏に対して二国間関係に尽くしたとして勲章を授与すると発言しています。先程紹介した内閣官房サイトも含め、現状、日本によるインドネシア「失望」発言をスルーするインドネシアの態度は冷静であり正しい判断だと思います。

 

なぜか気を使わないのは安倍内閣官房と日本メディア

そんな中、「新幹線」で日本の愛国心とインドネシアへの軽蔑心を煽るのは、毎度の如く我が国、日本のメディアです。この国際情勢にあっても、依然トップタイトルに「高速鉄道」。未練たらたらたらたらの失恋男みたいで気持ち悪く、国の威厳を貶めています。まあ、仕方ありませんかね。そういう商売で飯食ってるんですから。そうやって日本メディアが煽る中、ジャカルタでは、千名規模の日本の政治・経済・自治体団体が営業側の立ち位置でインドネシアに観光商材などを売込みに来ているという皮肉な図式。

そして、今回の問題は日本メディアだけでなく、「失望」発言を直接公にした世耕弘成内閣副官房自身にあります。こんなヤフコメユーザ以外に益をもたらさない発言を彼はどうして行ったのでしょう。不思議です。しかも、タイミング的に1,000名規模の日本政治・経済交流団体がジャカルタに到着したその当日に。自分としては、安倍首相が「いやー、取れなくて残念だったけど、次回はうちがもらうからね」みたいなノリで発言していたことを望むばかりです。Disappointedなど発言したら日本メディアは脚色して引っ張ることは想像がつきますし、今後の日イ関係に効果的に寄与するとも考えにくく、不可思議です。

 

発端は自民党のスキャンダル問題? 自民党二階俊博氏と世耕弘成氏の関係

ということで、正直、「失望」発言の真意を私は読めないでいるのですが、この内閣副官房の世耕弘成氏と今回「日インドネシア文化経済観光交流団」を引率する自民党総務会長の二階俊博氏の関係を見て、思わず笑ってしまったので、以下のレポートは週刊誌レベルのゴシップということを前提で見て頂ければ幸いです。そして当サイトとしては珍しく、引用は、「NEWS ポスト セブン」です(笑

路チュー不倫の中川農水政務官 官邸の更迭論に二階氏が一泡
自民党の中川郁子・農水政務官の「路チュー不倫」スキャンダルの際、中川更迭に傾く官邸の思惑に一泡吹かせたとされるのが二階俊博総務会長だった。

ポストセブンによると、中川氏が辞任するかどうかは、官邸で実権を握る世耕弘成・官房副長官の今後のキャリアに大きな意味を持っていたとのことで、このスキャンダルは、彼が更に上を目指すために衆議院選挙和歌山第一区で出馬する際のライバルである門氏(中川氏路チュー不倫相手)を蹴落とすチャンスだったのですが、これを安倍首相と直接掛け合って阻止したのが二階氏ということです。二階氏は同じ和歌山選出の世耕氏とライバル関係にあり、門氏と中川氏は二階派所属です。

なんだよ、単なる党内派閥争いじゃん。

裏など取っていませんので適当に流して頂いて結構ですが、日本のメディアが「Disappointed」と言った当の本人世耕氏の名前を全く出しませんので、こういった可能性についても今後、触れられることはないでしょう。さらに二階氏は親中、親韓派とも言われており、その彼が今度はインドネシアとの関係構築を先導するなど面白くないと思う人々はかなりいるはずです。結論的に、世耕による発言は、同日にインドネシアを訪問した二階氏の「日インドネシア文化経済観光交流団」の話題をメディア的に封印することに成功しています。1,000名もの政治・経済関連団体が一国に押し掛ける政治的インパクトがgoogleを中心としたメディアの中に見る影もありません。これも少し異常な感じがします。私はもともと政治臭がする日本からの大集団「日インドネシア文化経済観光交流団」の異様な光景と背景を覗いてみたかったのでなんだか複雑な気持ちです。

 

ガラパゴス日本メディアとそのターゲット

さて、当サイトはその主旨の一つとしてインドネシア情報のセカンドオピニオンとして、時に偏向報道がなされた際のバランサー的な役割も担えればと考えています。よって、時にメディアのメインストリームと外れるのは仕方なく、本来的にはこちらが亜流です。にもかかわらず、本流の報道の傾き具合には時々辟易されますが、最近、ビジネスとしてのマスメディアの立場が少しわかった気がします。「インドネシアの高速鉄道ネタ」など、メディアが書かなければマスには瞬時に忘れ去られます。そのおかげでこれまでのメディアの有害悪質な偏向報道も日イ関係にさして影響しなかったのではとも思います。ところが大手メディアが発すればやはり確実に世論は反応します。今回のケースで驚いたのは、一度忘れ去られたネタでも、しつこく打てばマスに響くということ (ヤフコメのリンク先コピー→https://archive.is/laxNq)。今回の安倍首相失望発言記事に対するヤフーコメントの反応です。11月23日の時点で2700以上の大衆投稿、それぞれに数万の同意や批判。ヤフコメ人のニーズを完全に満たしています。喜ばせています。彼らのサービスは大成功したと言っていいでしょう。ここにインドネシアと日本の発展や関係性など関係ありません。鶏が先かタマゴが先かの議論ではありませんが、マスは打たないと響かないのは確かです。マスにイニシアティヴなどありません。私はこのインターネットを使ったマスを打つ側のビジネスモデルや手法が個人的に嫌いです。

 

参考:
共同通信
インドネシア内閣官房サイト
Detik.com
Tribunnews
NEWSポストセブン

 




 


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