深夜のアホック知事自宅前襲撃デモと住民立退き問題

5月26日23:00頃、ジャカルタ、チリウン川・アンチョール川支流域地区立退き予定住民らが、 北ジャカルタ・プルイットにあるジャカルタ知事バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)邸宅に押し掛け、翌日に実施が決定していた立退き及び住居の強制撤去に反対するデモを行った。

「3、2、1、押せー! 3、2、1、押せー!」

アホック知事の住むコンプレックス(高級集合住宅街)前にバイクなどで駆けつけた立退き反対住民らは、アホック知事(以下、アホック)との面会が許されず、その後、コンプレックス正面門を自力で押し開けようと試みた模様だが、デモは約1時間ほどで警察によって平和裏に解散させられている。代表者によると、立退き住民の移転先がまだ決まっておらず、知事に対し立退き期限延長の要求を行うためにデモを行ったとのことで、深夜に自宅まで押し掛けたことに関しては、現地には既に当局者が立ち入っており、彼らには残された時間が無かったからだと述べた。

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ジャカルタ知事アホック -kompas.com-

当のアホックはというと、本人曰く、「寝てただけだよ。もう慣れた。過去、プルイット貯水池整備の時は1,000名規模で自宅襲うって脅されたこともあるし。 毎回こんな感じだよ。この仕事は危険」と軽くかわした後、「彼らが不法占拠する2.8kmは住居と川縁が1~2mで水深も浅くなってしまった。1,000万人が困るか、彼らが移動するか、どちらを選ぶかということ。デモを仕掛けられようとも、自宅を強襲されようとも、撤去は変わらない。ジャカルタの洪水と渋滞対策のためだ」と撤去の必要性を述べた。又、「こういうのはよくあること。どういったらいいのかな。以前、先方から(子供達の)全国統一試験が終わるまで撤去を延期してほしいとの請願を受け、我々は承諾した。彼らは試験が終わったら立退く約束をしていたのに、これだ。次は、間違いなくレバランまで待ってほしいとか言うんだよ」と、これ以上の延長には応じない旨を説明した。アホックはジャカルタ前知事ジョコウィと違い、住民との和解を図る姿勢を敢えて示すようなスタイルを取るタイプの政治家ではない。

ジャカルタ政府は、洪水対策の一環として、川縁まで迫った不法住居等を撤去し、河川脇道路を敷設、川床の浚渫や護岸の増強を行うなどの河川整備を行っている。今回の撤去予定地である西ジャカルタ・ピナンシア地区、及び北ジャカルタ・パドゥマンガン地区河川敷も州管轄の緑地となっており、特に土地収用に関連して、居住者は不法占拠者として扱われる。又、政府は立ち退き住民に対して移転先マンションを用意するとしている。

 

子供を全面に出したデモ

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子供を全面に出した当日のデモ -kompas.com-

さて、深夜のデモをアホック自宅前で行った彼らはその数日前の5月22日にジャカルタ庁舎前でも人目を引くデモを行っている。写真にあるように、この時、前面に立たされたのは小学生達である。彼らが「扉を開けよ、扉を開けよ」と庁舎前で叫びながら扉を揺らすのだ。その後ろに「金持ちは護られて、貧乏は追い出される」と書かれた横断幕を持つ女性たち、そしてその後ろの街宣車から、恐らく野郎どもが演説を打つ。

日本では家族でデモという形で子供が借りだされることはあるだろうが、子供が前面に立ち、大人の道具として使われるケースは稀であろう。インドネシアでは、立退き反対運動や、物乞いに子供が利用されることがある。

 

強制撤去決行

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撤去の様子 -kompas.com-

そんな彼らの努力も空しく、2015年5月27日、西ジャカルタ・ピナンシア地区、及び北ジャカルタ・パドゥマンガン地区、約800世帯、600戸に対し、地方自治警団500名及び警察・国軍100名が動員され、強制撤去作業が実施された。

ピナンシアの現場を直接確認したジャカルタ地方議員シャリフによると「悲惨で心苦しい現状だ。政府は人道的見地を伴った都市計画を持っていない。 私のデータだと28名の幼児、23名の小学生がいるが彼らは明日の学校はどうなるのだ。現在、追い出された住民は区役所で寝泊まりしている」と述べ、子供に対する配慮や、移転先の決まっていない立ち退き住民らに対する政府の対応を批判した。

又、タマンサリ副区長ジャハルディンに対する5月24日時点でのコンパスの取材によると、タマンサリ区178世帯の内、政府が用意したマンションへ移る権利を有する家族は、建物に対する税支払を証明できる114世帯のみであり(賃借人への補償は移転先含め、無し)、更に、現状政府が準備完了しているマンションは50世帯分しかないという。残りの64世帯についてはどこへ移動になるのか明らかではないとのことだ。 又、先日5月23日、この50世帯分のマンション入居抽選会が行われたが、同時期に同じ場所へ全員の入居が出来ない事を理由に、住民側は抽選会を拒否しているとのことである。

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撤去後の様子 -merdeka.com-
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撤去後の様子 -merdeka.com-
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撤去後の様子 -merdeka.com-
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撤去のショックで失神した女性 -kompas.com-

 

不動産屋、政治家、利権者

これに対しジャカルタ知事アホックは以下の様に述べている。

「妥協はない。撤去は必要。家が無くなれば他で借りるだけのこと。実のところ、騒いでるのは州有地を勝手に住民に貸し出している不動産連中だ」

「先日、俺の住居に文句を言いに来た連中もこの不動産屋」

「デモの先導者はトヨタのフォーチュナーで来てたよな。ちゃんと見てるよ我々は。あれはどこの学校卒の何の活動家で何者だ? 政治工作で俺の邪魔をしたいってか」

「興味なし、彼らがこういう政治をしてくるなら、どんどん撤去するだけ。この手のやり口はもう暗記済み、国の土地を占拠して、特にそれを他人に賃貸してるような奴ら」

「もし移転先が決まっていない立ち退き者がいるのなら、すぐに、村長、区長、市長に報告し、政府が用意したマンションの提供を受けること」

「もし、こちらで準備したマンションへの移転も拒否するのなら、それは彼らのリスク」

「テントを張りたいならどうぞご自由に。どれだけ持つか興味をもって見届けてやろう」

「移転して最寄り客を失うことを商売人は恐れている」

「今、彼らはトンコル地区に彼ら用にマンションを建設しろと言っている。こんな話があるか?」

アホックによると、州管轄の緑地を不法占拠する住民に対して、州はマンションを用意して撤去作業を行っており、彼らは公共の秩序・利益のためにもわがままな態度を取るべきでなく、又、実際騒ぎを起こしているのは、この土地を勝手に貸し出している不動産屋の連中や、商売人、活動家、そして政治家がメインだとし、これ以上の妥協を一切行わない旨を表明している。

同様の旨は、ジャカルタ副知事ジャロットからも「政府は彼らの全要望に応じてきた。移転の延期、マンションの準備。ピナンシア地区と連絡を取り、パドゥマンガンもOK、問題はないと言うことで、残すところは露天商の商い場だけとなっていたのだがこれだ」と述べられた。

更に、アホックは本件に関して多くの政治家から電話やショートメールを受けており、彼らからも立退きの中止を求められていることを明らかにした。彼によると「たくさんの政党政治家から電話、BBM、SMSが来たよ。撤去を止めろって。俺に言わせると、数百人の住居撤去を止めて1,000万人を犠牲にすることで政治権益を得たいかってことだ。俺はわかっているんだ。この仕事は人気を得ながらやれるものじゃないんだよ(嫌われる仕事だ)。だから過去のジャカルタ知事の幾名かは土地収用を行えなかった。河川整備の問題の脇で、我々は今まで常に政治家としての役割という罠に嵌められていた。しかし、俺の仕事は自分の人気を気にすることではなく、ジャカルタの洪水と渋滞を解決することだから。」と、立ち退き住人に同情的な政治家を含め、政治マターで行政が止まる問題を批判した。因みに、アホックは、2014年9月、彼のジャカルタ副知事当選を支援した所属政党グリンドラ党を政治方針の違いから自ら脱党し、現在、無所属となっている。

但し、アホックは具体的に本プロジェクトをハンドリングしているという訳でもない。かなりざっくりとした把握の仕方に見える。 撤去日当日、西ジャカルタ・ピナンシアの住民がジャカルタ庁舎にてアホックとの面会を果たし、「西ジャカルタ・ピナンシア側は川から10mの範囲が撤去対象となっているが、北ジャカルタ・パドゥマンガンでは5mだ。これはおかしくないか」とその理由を問い質したが、アホックは回答できなかったので、その場で直接、西ジャカルタ市長に電話をしている(お粗末なのは市長もそれについて回答が出来なかった)。そんなレベルであることは付け加えておく必要があるだろう。

 

付け入る隙が多いジャカルタ州政府

結論的には、政府が主導するプロジェクトにもかかわらず、政府側の準備がずさんなのは確かであり、相手(住民)側に対して、付け入る隙を与えすぎている。このような土地収用問題では、政府側と住民側で明らかな意見の相違が出てくる。それは補償に関してだ。 人道支援とはいうが端的に常に問題となるのはこの「補償」である。その最もたる移転先を、政府が数値として事前に公的にアナウンスしない又は出来ない状況では、たとえアホックの唱えていることが全て正しかったとしても、政府側に負があるととらえられても仕方が無いのではないか。又、公的暴力機関(警察・軍・自治警団)を以て強制介入が可能な政府側は、本来それ故に、理屈の通ったデータを揃えてプロジェクト実施方法の正当性を証明するべきだが、概して貧困層の値段は安く、政府対応もそれに準じてお粗末なものとなっているように思う。ジャカルタ、インドネシアに限った話ではないが。

 

参考:
http://news.detik.com/read/2015/05/27/000550/2925864/10/malam-hari-kediaman-ahok-didemo-warga-bantaran-kali-ciliwung
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/02/24/13564301/.Saya.Enggak.Mau.Pergi.kalau.Belum.Dapat.Rusun.
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/02185531/Protes.Penggusuran.Massa.Berusaha.Jebol.Pagar.Rumah.Ahok
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/22/10042471/Belasan.Anak.Berseragam.SD.Demo.Ahok.Goyang-goyang.Pagar.Balai.Kota
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/18435121/Syarif.Sebut.Pemprov.DKI.Tidak.Punya.Aturan.yang.Jelas.soal.Penggusuran.
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/02/24/13564301/.Saya.Enggak.Mau.Pergi.kalau.Belum.Dapat.Rusun.?utm_source=news&utm_medium=bp&utm_campaign=related&
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/08593151/Ini.Kata.Ahok.soal.Penyerbuan.Warga.ke.Rumahnya?utm_source=WP&utm_medium=box&utm_campaign=Khlwp
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/11151781/Ahok.Tak.Ada.Toleransi.soal.Penggusuran
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/10503631/Ahok.Tugas.Saya.Bukan.soal.Populer.tetapi.
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/11044331/Wagub.Kecewa.Warga.Pinangsia.Ingkar.Janji.dan.Serbu.Rumah.Ahok
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/27/12334711/Ahok.Saya.Enggak.Suka.Anda.Datang.ke.Komplek.Saya
http://megapolitan.kompas.com/read/2015/05/28/13494951/Ahok.Sebut.Pengurus.Demo.Warga.Pinangsia.Naik.Fortuner?utm_source=WP&utm_medium=box&utm_campaign=Kknwp

 




 


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